HandBrake はオープンソースの動画圧縮ソフトとして長年定番です。DVD のリッピング、配信用ファイル作成、x264 / x265 / SVT-AV1 までフル機能。ただし弱点が一つ:インストール・GUI 学習・アップデート維持が必要 という、カジュアル用途には重いハードルがあります。

この記事では HandBrake と FFmpeg Cookbook のブラウザ版圧縮ツール を比較し、用途に応じてどちらが向いているかを判定します。

検証: HandBrake 1.8.2 · FFmpeg 7.1 · ffmpeg.wasm 0.12.15 · Chrome 124 / Safari 17 / Firefox 125


比較表(一覧)

HandBrakeFFmpeg Cookbook
インストール必要 (Win/Mac/Linux)不要 — ブラウザだけ
アカウント不要不要
ファイルのアップロードなし(ローカル)なし(ローカル, ffmpeg.wasm)
エンコーダx264 / x265 / SVT-AV1 / NVENC / QSVx264 (H.264) のみ
CRF / 2-pass両対応CRF または目標サイズ
ハードウェア支援あり (NVENC/QSV/VideoToolbox)なし(ブラウザの制約)
バッチキューあり1 ファイルずつ
DVD / Blu-ray リッピングありなし
字幕焼き込みあり字幕ツール
ウォーターマークなしなし
モバイル / タブレット非対応対応
料金無料・OSS無料・フロントエンド OSS

HandBrake の方が向いているケース

正直に書きます。次のいずれかが必要なら HandBrake を入れた方がいいです。

  • ハードウェアエンコード:NVENC / QSV / VideoToolbox を使えば x264 ソフトウェアの 4〜10 倍速。ブラウザは GPU にアクセスできません。
  • 大量バッチ処理:HandBrake のキューに 50 件登録して放置できる。私たちは 1 ファイルずつ。
  • HEVC / AV1 エンコード:x265 や SVT-AV1 の WASM ビルドはサイズが重く、ブラウザに乗せていません。
  • DVD / Blu-ray のリッピング:物理メディアの読み込みはブラウザ不可能。
  • 長尺ファイル (30 分超 / 1 GB 超):ffmpeg.wasm はフレームをメモリに展開するため、大ファイルで不安定になります。HandBrake はディスクから読むので無制限。

動画編集を週単位でしていて毎週圧縮タスクがあるなら、HandBrake を入れて GUI を覚えた方がトータル速いです。


ブラウザ版の方が向いているケース

  • 単発の圧縮:1 ファイルだけ圧縮したいのに 50MB のアプリを入れたくない。タブを開いてドロップ → ダウンロード、で終わり。
  • プライバシー重視:両方ともローカル処理ですが、ブラウザ版は インストーラーもテレメトリも自動更新もない、ただの HTML + WASM がタブで動いているだけです。閉じれば消えます。
  • 共有 PC / 学校 / 職場:ソフトをインストールできない環境で唯一動く選択肢。
  • 手順を人に教えたいhttps://ffmpeg-cookbook.com/ja/tools/compress/ を共有する方が、「HandBrake をダウンロードして…Gatekeeper 警告を無視して…」と非エンジニアに説明するより圧倒的に楽。
  • Discord / SNS の容量制限Discord Compressor は 10 / 25 / 50 MB を狙い撃ち。HandBrake は 2-pass で近似するしかありません。
  • モバイル:HandBrake にモバイル版はありません。ブラウザ版は iPad / Android タブレットでも動きます。

画質とサイズは同じ?

両方とも結局 libx264 という同じ H.264 エンコーダを呼び出します。同じ CRF・preset・解像度なら、出力は ほぼビット単位で同等 です。

1080p / 60 秒 / トーキングヘッドの素材で 概ね期待される目安 は次の通りです(libx264 の公開資料と私たちの非公式テストに基づく代表値で、単一の管理されたベンチマーク結果ではありません。あくまで参考レンジとしてご覧ください):

設定おおよそのサイズおおよその VMAF
CRF 23 / preset medium45〜55 MB約 94〜96
CRF 20 / preset slow65〜80 MB約 96〜98
CRF 28 / preset fast25〜35 MB約 88〜91

HandBrake と ffmpeg.wasm の数 % のサイズ差は HandBrake のコンテナ muxer・メタデータデフォルトに起因するもので、エンコーダの違いではありません。同じ CRF / preset / 解像度なら 画質は機能的に同等 で、両者は同じ libx264 系列を呼び出しています。

自分の素材で正確な数値を取りたい場合は、デスクトップ版 FFmpeg の -i input.mp4 -c:v libx264 ... -ssimvmaf フィルタで実測してください。本表の数値は実測の代替にはなりません。

「ブラウザ版は遅いから画質が悪い」と思われがちですが、画質ではなく速度の差 が出るのは事実で、それはハードウェアエンコードが使えないから。同じ x264 ソフトウェアエンコードならスピードも変わりません。


HandBrake の各設定に相当する FFmpeg コマンド

HandBrake のすべての設定は FFmpeg の引数に対応します。マッピングを覚えれば、HandBrake が何をしているかを CLI でも、ブラウザでも、サーバーでも再現可能です。

CRF 圧縮(多くの人が欲しいやつ)

# HandBrake の "Constant Quality 23, x264, Medium preset" と等価
ffmpeg -i input.mp4 -c:v libx264 -crf 23 -preset medium -c:a aac -b:a 128k output.mp4

ブラウザツールはこの 3 つのつまみ(CRF・preset・音声ビットレート)を UI で公開しています。コマンドを覚える必要はありません。

目標ファイルサイズ(HandBrake の “Avg Bitrate 2-pass” の中身)

# 60 秒動画を 25MB に → 動画ビットレート約 3.3 Mbps
ffmpeg -i input.mp4 -c:v libx264 -b:v 3200k -pass 1 -an -f null /dev/null && \
ffmpeg -i input.mp4 -c:v libx264 -b:v 3200k -pass 2 -c:a aac -b:a 128k output.mp4

Discord Compressor は「10MB」「25MB」を選ぶだけで、この計算を自動でやります。

解像度変更と圧縮を同時に

ffmpeg -i input.mp4 -vf "scale=1280:-2" -c:v libx264 -crf 23 -preset medium -c:a aac output.mp4

-2 は「2 で割り切れる縦解像度」(libx264 の要件)。ブラウザツールでは「1080p / 720p / 540p」のドロップダウンで選択できます。


ブラウザ版で諦める部分

正直に書きます。ブラウザ版は HandBrake のクローンではありません。

  • HEVC エンコードなし:libx265 の WASM ビルドは大きすぎてバンドル不可。H.264 のみ。
  • ハードウェア支援なし:ブラウザサンドボックスは GPU に直接アクセスできません。
  • 字幕タブと圧縮タブの統合 UI なし:HandBrake は同じダイアログで字幕も扱えますが、私たちは 字幕ツール透かしツール に分けています。
  • 実用上 500MB 制限:それを超えるとブラウザのメモリ制限に当たります。HandBrake はディスク読みなので制限なし。

このいずれかが必須なら、HandBrake を入れてください。


HandBrake → ブラウザ版 移行レシピ

よくある HandBrake のワークフローを、ブラウザツールでどう実現するか:

HandBrake の使い方ブラウザ版での代替
”Web Optimized” preset圧縮 で CRF 23、preset medium、+faststart(デフォルト)
“Discord 25MB” 目標Discord Compressor で 25MB を選択
”Vimeo 1080p” preset圧縮 で 1080p、CRF 20、preset slow
字幕焼き込み字幕ツール — SRT をドロップ、スタイル選択、焼き込み
動画から音声抽出音声抽出 — MP3 / WAV / AAC
トリム後にエンコードトリム → ダウンロード → 圧縮

よくある質問

FFmpeg Cookbook は本当に無料ですか?

はい。すべてのツールがアカウント不要・透かしなし・アップロードなしで無料です。運営費を補うため、将来的に広告配信や一部記事での紹介リンクを利用する場合がありますが、ツール自体に有料プランはありません。

なぜブラウザ版は HEVC をサポートしないの?

libx265 の WebAssembly ビルドは libx264 の約 2 倍のサイズで、Safari の HEVC デコーダ対応も古い端末では不安定です。ffmpeg.wasm を小さく・どこでも動く状態に保つため、HEVC エンコードは見送りました。HEVC が必要なら HandBrake かデスクトップ FFmpeg をお使いください。

ファイルが本当にアップロードされないか確認したい

DevTools → Network タブを開いてツールを動かしてみてください。出力されているのはページアセットと ffmpeg.wasm core のダウンロード(初回のみ約 27MB、以降キャッシュ)だけ。ファイルペイロードを伴う送信リクエストは 0 件 です。

4K や長尺動画でも使える?

実用上は約 500MB / 30 分まで。それを超えるとブラウザのメモリ制限で不安定になります。4K マスターファイルや長編コンテンツにはデスクトップ版 HandBrake が適切です。

オフラインで使える?

初回読み込み後は使えます。ffmpeg.wasm とページ素材は Service Worker でキャッシュされるため、一度使えば次回からはネット接続なしで動作します。

HandBrake が隠してる FFmpeg コマンドはどうやって学べる?

各ブラウザツールページに「相当する FFmpeg コマンド」セクションがあり、CLI で再現するためのコマンドを表示しています。ローカルで実行すれば HandBrake の動作と同等の出力が得られます。

どっちが速い?

ソフトウェアエンコード (x264 のみ) なら同等。ハードウェアエンコード(NVENC / QSV / VideoToolbox)を使うと HandBrake が圧勝です。ブラウザサンドボックスは GPU を使えません。


おすすめ判定

  • HandBrake を選ぶ: 動画圧縮を週単位で行う / HEVC・AV1 が必要 / GPU エンコードしたい / DVD・長尺コンテンツを処理する
  • FFmpeg Cookbook を選ぶ: 単発の圧縮 / インストール 0 が大事 / 共有 PC を使う / Discord・SNS の容量制限を狙う / 人にリンクで共有したい

両方とも無料・OSS 系のツールです。重なる用途を別のトレードオフで解いているだけ。ブラウザ版は軽量、HandBrake は重量級。状況に応じて使い分けてください。


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検証: HandBrake 1.8.2 · FFmpeg 7.1 · ffmpeg.wasm 0.12.15 · Ubuntu 24.04 / Windows 11 / macOS 14 一次ソース: HandBrake Docs · FFmpeg libx264 Wiki